日光花火/六方沢橋/夏の夜の物語

日光/宇都宮の花火〜六方沢橋/夏の夜の物語

ねぇ、覚えてるかな?

あの日、二人で話してたよね。8月9日の夜、日光と宇都宮で花火大会があるって。どっちも見たいねって、少し欲張りな願いだったけど、なんだか諦めきれなくて。

広い空の下、たくさんの人たちと一緒に盛り上がるのも素敵だけど、もしも二人だけで、静かに花火を見れたら…って、そんなわがままな夢を、きっとキミは聞いてくれたんだ。

たくさんの写真や、人から聞いた話を調べて、やっと見つけたんだよね。とっておきの、二人だけの秘密の場所。

涼しい風が誘う、秘密のドライブ


あの日、車に乗り込んだ時のこと、今でも鮮明に覚えてるよ。街の熱気から逃れるように、ハンドルを握るキミの横顔を、ずっと見ていた。窓を開けると、だんだんと空気はひんやりしてきて、夏の匂いから、高原の、少し懐かしいような草の匂いに変わっていく。カーラジオから流れるお気に入りのラブソングが、今日の特別な時間を、そっと彩ってくれていたよね。

霧降高原道路をぐんぐん登っていくたびに、どんどん街の光が小さくなって、まるで地上から遠ざかっていくみたいだった。標高1,430メートル。数字だけ聞くと遠く感じるけど、キミと一緒なら、どこまでも行ける気がしたんだ。山肌を走る一本道、夕暮れに染まる空が、私たちの行く先を優しく照らしてくれていて、なんだか、キミとの未来みたいだって、こっそり思ったんだ。

夕焼けと夜景が溶け合う、魔法の時間

六方沢橋にたどり着いた時、息をのんだよね。だって、目の前に広がる景色が、あまりにも壮大で、言葉が出なかったんだもん。橋の上から見下ろすのは、雄大な日光の山々。そして、その山々の向こう側、はるか眼下には、日光と宇都宮、二つの街の光が、まるで宝石を散りばめたみたいに、きらきらと輝いていた。

夕焼けがだんだんと夜の帳に変わっていく時間。太陽の残光が空をピンクやオレンジに染めて、その色がだんだんと深い青に変わっていく。キミが「見て、すごい…」って呟いた声も、あの景色と同じくらい、心に響いたんだ。私たちは、この世界で二人だけみたいだったね。誰の邪魔も入らない、二人だけの特別な特等席。

花火を待つ、静かなプロローグ

花火が始まるまでの時間も、すごく愛おしかった。橋のすぐそばの展望スペースで、二人で並んで座ったよね。車から持ってきた温かいココアを飲みながら、だんだん冷えてきた手に、キミがそっと自分の手を重ねてくれた時、ああ、この瞬間がずっと続けばいいのにって、願ってしまったんだ。

遠くの街の灯りを眺めながら、色々な話をしたね。仕事のこと、家族のこと、他愛のない冗談、そして、二人の未来のこと。風が吹くたびに、キミの髪が揺れて、その横顔が、月明かりに照らされて、なんだかすごく綺麗だった。

あたりは本当に静かで、遠くの車の音がかすかに聞こえるくらい。街の喧騒から遠く離れて、こうしてキミと二人でいられることが、なんだか奇跡みたいに思えたんだ。


二人だけの空に、咲き誇る光のメッセージ
ねぇ、ついに花火が始まった時、キミはどんな気持ちだったかな?

最初に打ち上がった一発の花火。はるか遠い空に、キラキラと輝く光の粒が見えて、そして少し遅れて、ドーン!って、遠くからだけど、心臓に響くような音が聞こえてきた。その瞬間、キミと目を合わせて、二人で笑ったよね。
それから、次々に打ち上がる花火。色とりどりの光が、漆黒の空に咲き誇って、まるで夜空に大きな絵を描いているみたいだった。オレンジ、ピンク、ブルー、グリーン…たくさんの色が、一瞬だけ世界を照らして、そして儚く消えていく。

六方沢橋から見る花火は、会場で見る花火とは全く違った。大きく、目の前に広がる花火も迫力があるけど、ここから見る花火は、まるで夜景の一部みたいだった。宝石みたいに輝く街の光と、星空に散りばめられた花火の光。二つの光が溶け合って、すごく幻想的でロマンチックな世界が広がっていたんだ。

花火の音は、遠くから聞こえてくるから、うるさくなくて、むしろ心地よかった。風が吹くたびに、キミが「風が花火の音を運んできてくれたみたいだね」って言ってくれて、その言葉がすごく素敵で、なんだか胸がキュンとしたんだ。

いつまでも色褪せない、夏の思い出


花火が終わった後も、私たちはしばらく動けなかったよね。夜空には、まだ花火の光の残像が残っていて、その儚さが、なんだか少し寂しかったけど、キミが「来年もまた二人で見に来ようね」って言ってくれた時、寂しさなんて吹き飛んでしまった。

この日の花火は、ただの夏のイベントじゃなかった。二人だけの秘密の場所で、誰にも邪魔されずに、キミと二人で見上げた、特別な夏の思い出。それはきっと、何年経っても、色褪せることのない大切な宝物になるって、そう思ったんだ。

ねぇ、本当にありがとう。最高の花火を、最高の場所で、最高のキミと見ることができて、私は本当に幸せだよ。
また来年、この橋の上で、二人だけの花火を見ようね。きっとその日も、今みたいに笑い合えるよね。

COCON NIKKO 遠藤実沙